
今月はイタリアのシチリア島における施設キク生産についてご紹介します。
シチリア島はイタリア本土の長靴のつま先が蹴るような場所に位置し(写真①)、地中海最大の島で九州の約64%の面積があります。温暖で乾燥した地中海性気候の下にオリーブやブドウ、レモン、オレンジ、アーモンドなどが大規模に生産されており、イタリア料理に欠かせないトマトやナス、ズッキーニ、パプリカなどの園芸作物もイタリアで随一の生産量を誇っています(写真②)。

写真①シチリア島マップ<Wikipediaより> 写真②野菜の施設栽培
シチリア島において、花き生産は多くはありませんが、重要な作物としてキク切り花があります。世界のキク切り花の年間生産本数は、業界関係者からの聞き取りによると、多い順に日本(18億本)、オランダ(12億本)、コロンビア(8億本)、イタリア(3億本)、メキシコ(3億本)、南アフリカ共和国(1.5億本)です。イタリアで生産されている約3億本のうち、1億本がシチリア島で生産されています。オランダからもキクが輸入されてきますが、イタリアでの生産量のほとんどが自国で消費されています。スプレーギクの単価は時期や市況にもよりますが、20~30ユーロセント/本ほどで、オランダの競り値とほぼ同等であると言えます。南イタリアでは、5本の束が3ユーロほどで販売されており、これもオランダの末端価格か少し高いくらいです。北イタリアの都市では、その2倍の末端価格になるそうです。消費者が花を購入するのは、花屋かストリートベンダー(屋台店舗)がほとんどで、シチリア島では墓地の近くに多くのキクが売られているのを見かけました。夏は観光のハイシーズンで、島外に出ている人々が、シチリア島に仕事に戻ってくるので、お墓にお供えする花としてのキクの需要が高まるそうです。
筆者が訪問した施設キク生産者M社は、シチリア島の南部に位置するラグーサ県ヴィットリアに生産拠点を持ち、45haという巨大規模の経営を行っています。キク生産者では世界第二位の年間約8,000万本を生産しています。シチリア島にはキクの生産者は2社しかなく、すぐ隣のS社は28haで年間2,500万本を生産しています。M社はかつてトマトなどを栽培していましたが、1994年に15haでキク生産をスタートしました。ヴィットリアの園芸地帯は、ほとんどが無加温で簡易な構造のプラスチックハウスですが(写真③)、その中でM社は特異的であり、オランダなどから輸入したガラス温室や栽培設備を主に使っています(写真④)。

写真③ヴィットリアのハウス群 写真④キク生産者M社のガラス温室
会社組織としては親族が経営する8社の圃場に分かれていますが、出荷はすべてM社のブランドとして国内の販売業者に出荷しています。
自社圃場で穂木生産も行っており(写真⑤)、ここでは約30人のスタッフがいて、季節にもよりますが会社全体で約200名のスタッフが働いています。圃場で働くスタッフは、地元出身者、国外からはヨーロッパ、アフリカ、中東などから仕事に来ています。ピートブロックも自社で加工し、圃場で発根させた後、本圃に定植します。
生産設備や栽培方法は、オランダの方法と似ていますが、CO2施用は行っておらず、それでも収オランダの平均的な収穫本数と同等とのことでした(写真⑦⑧)。しかし、オランダと異なり夏の高温が過酷なため、遮光剤の塗布、パッドアンドファンやミストによる加湿・冷却を行っていました。気候的な理由から天敵昆虫による害虫防除は困難とのことで、化学農薬を主に使っているようでした。
キク切り花は安い単価の割にボリュームが大きく輸送コストが高くつくので、自国の温暖な気候で比較的安い労働力を使い、そしてその気候やマーケットにあった品種や高水準の技術でオランダとの差別化に成功していると感じました。

写真⑤穂木生産圃場 写真⑥ブロック苗の発根圃場

写真⑦スプレーギクの生産圃場 写真⑧収穫前のスプレーギク
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